松原むかしばなし(其の十)

松原混声に60年以上在団し、合唱連盟の活動でも活躍されている野村維男さんによる「むかしばなし」シリーズの第10回です。元は団員向けに執筆されたものですが、合唱文化の歴史の一端を知ることができる貴重な資料でもありますので、ご本人の了解を得て公開しています。

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演奏旅行①

2020年6月11日
野村維男

松原の演奏旅行を調べてみました。晋友会、コンクール全国大会そして近県、例えば横浜や鎌倉への日帰りは除いてもそれなりにあちこち訪れています。

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山梨県富士吉田市(1974年9月)

近県・日帰りを除くと書いてあるのに「なぜ?」と思うかもしれませんが、これが演奏旅行第1号らしいので、あえて載せました。
前年のコンクール全国大会金賞受賞のおかげで山梨県合唱コンクールに招待いただきました。演奏したのはブラームス「おお美しい夜」ピツェッティ「アフォロディテの園」。この2曲はその年のコンクールで松原が歌う予定の課題曲と自由曲でした。それと3月の湘南・松原合同演奏会で演奏したロックミュージカル「ゴッドスペル」の抜粋でした。どのようにして行ったのか、ゴッドスペルの演出はどうだったのか、など完全に記憶が飛んでいます。

宮城県仙台市(1981年6月)

グリーンウッドハーモニー(GWH)の定期演奏会に招かれて客演しました。松原の元メンバーが仙台に移り住んでGWHに入団したり、GWHの元メンバーが松原で歌っていたりしている縁から実現したものです。指揮者の今井邦男さんとGWHはこの頃からコンクールで活躍されていましたし、今でも全国大会で上位入賞常連です。松原はドビュッシーとラヴェルの「三つの歌」を歌いました。合同演奏は湯山昭「息づく日々」で関屋先生の指揮でした。こちらの方が初めての演奏旅行にふさわしいかもしれません。

オーストリア・ウイーン(1984年6月)

今度は一挙にウイーン。松原単独では唯一の海外公演で、ウイーン芸術週間の催しの1つになっていました。演奏以外も大変充実した貴重な時間を過ごすことができました。
参加したのは40人、参加できなかった人が相当多かったことが分かります。それぞれに苦労してスケジュールを調整した結果だったのでしょう。
ウイーン1日目は市中心部のカール教会での日曜ミサでパレストリーナを歌うことから始まりました。聖歌隊席で歌ったのですがリハーサルの時に関屋先生が「順番に下に降りて聴いてみろ。これがヨーロッパの音なんだよ」と言われました。全員が聴くだけの時間はなかったのですが、歌いながら「本場」にきているのだと実感しました。夜には国立歌劇場でアグネス・バルツァー、ホセ・カレーラスの出演そして指揮がロリン・マゼールの「カルメン」を鑑賞できるという幸運に恵まれました。
2日目は本番。会場は前日と同じカール教会です。演奏したのは間宮芳生「コンポジションⅠ」、ブラームス「愛とロマンス」、ラヴェル「三つの歌」、新実徳英「マドリガルⅡ」でした。

ウイーンでの演奏と考えるとかなり大胆なプログラムなのではないでしょうか。関屋先生のチャレンジ精神を感じます。
お客さんは多くはありませんでしたが熱心聴いていただけました。後になって、晋友会のステージでご一緒したバリトンの松本進さんから「あの頃ウイーンに留学していて松原の演奏会を聴きましたよ。」と伺いました。

長野県岡谷市(1991年10月)

岡谷合唱団との合同演奏会でした。岡谷合唱団は長野県の有力合唱団で、1987年から関屋先生を常任指揮者に迎え、晋友会の仲間になっていました。
「いい演奏はいいホールから生まれる」とプログラムで関屋先生が述べておられるように、カノラホールの存在がきっかけの1つになった演奏会です。カノラホールの響きには定評があり、松本でのサイトウキネン・フェスティバル関係のレコーディングなどにもよく使われていました。
演奏会は、新実徳英「海のディヴェルティメント」とモーツァルト「レクイエム」が関屋先生指揮の合同、清水敬一さんが三善晃「五つの願い」を指揮しました。

長崎県大村市(1997年7月)

地元のカトレア・コーラス(女声合唱団)との合同演奏会。関屋先生が定期的ではなかったようですが指導されていたこと、メンバーのお母様が指揮をされていること、また松原の元メンバーが故郷に戻ってこの合唱団で歌っていることなどがきっかけで実現した演奏会です。
松原は清水敬一さんの指揮で「NHKコンクール課題曲名曲集」と関屋先生指揮で吉岡弘行「十ぴきのねずみ」武満徹「うた」より4曲を演奏。最後に荻久保和明「季節へのまなざし」から2曲を関屋先生の指揮で合同演奏しました。
カトレア・コーラスは40人以上のメンバーですので、男声パートは肩身の狭い合同演奏でした。打ち上げでもカトレアのお姉さま方のパワーに圧倒されたことを覚えています。

長野県南牧村(1997年11月)

この村に八ヶ岳高原音楽堂があり、そこで「八ヶ岳高原合唱祭」が開催されています。近隣の数ヵ町村の合唱団が出演しており、この年は10周年で、記念イベントとしてお招きいただきました。
地元合唱団13団体が出演しましたが、7団体が混声合唱団でした。テノール、バスそれぞれ1人で頑張って歌っておられるところもあったりしますが、とにかく多くの方がこの地域で合唱を楽しんでおられることが分かりました。
松原は第3部に清水敬一さんの指揮で、吉岡弘行「十ぴきのねずみ」と荻久保和明「季節へのまなざし」の全曲を演奏しました。八ヶ岳高原音楽堂は森の中の客席数250というコンパクトで響きの良いホールでした。ここで夏休みを過ごしながら室内楽を聴いたりしたらいいだろうな、と思いました。
終演後に地元合唱団の方と懇談会があり、農繁期には練習が出来ない、という話を伺い、合唱団の環境は本当に様々だということを改めて感じました。


※本稿に記載した内容は野村維男個人の意見・感想であり、松原混声合唱団としての見解ではありません。

編者追記

ウイーンの教会でのコンサート、羨ましいです…。私もハンガリーの教会で歌った時の残響の長さは忘れられません。岡谷合唱団の話や大村のカトレア・コーラスの話はよく先輩方から伺いました。信じてもらえないと思いますが、私は今回の記事で参加したものはない(2000年入団)なので、次号を楽しみにしています!(真下)